AI(人工知能)と人間の決断力

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AI(人工知能)と人間の決断力

【AI】AI(人工知能)を使いこなす!人間の決断力

AI(人工知能)を使いこなす!人間の決断力
 
 
 
1.AI(人工知能)の目覚ましい進化
 
2.AIへの希望と不安
 
3.「仕事がデキる」とはどういうことを指すか?
 
4.私の体験談
 
5.日本のホワイトカラーの生産性が低い理由
 
6.人間の思考
 
7.ナポレオン流「決断力の高め方」
 
8.思考力、決断力の効果的なトレーニング方法
 
9.ゆるぎない「決断の軸」を持つ
 
 
 
 
1. AI(人工知能)の目覚ましい進化
 
2012年あたりから始まったAIの進化については、近年目覚ましいものがある。
 
その典型例として将棋ソフトと棋士との対戦「電王戦」がある。2017年5月に
現役トップである佐藤天彦名人が、将棋ソフト「ポナンザ」と2局対戦してともに
敗れたことは、関係者に大きな驚きを与えた。
 
 名古屋市のタクシー会社では、それまでベテラン運転手の勘と経験頼みだった流し
営業について、AIによる配車を取り入れることで売上高が20%も増加した。携帯
電話の位置情報、近隣のイベント情報、カレンダーや天気などの情報を複合的に判断
させることで、実車率を高めることに成功したのだ。半信半疑だったベテランドライ
バーも、売上増という成果を目の前にして、全社的にAI配車を導入することになった
という。
 
 ほかにも、画像や音声の認識能力が人間以上に高いロボットが、ホテルの受付に
配属されるなどの事例もある。人手不足が足かせとなっている職場では、AIに期待
する声も多く寄せられているという。
 
AIの強みとは、反復作業に強い、疲れない、高速、しがらみにとらわれない、などだ。
これらを、人間の弱みである、感情で判断してしまう、記憶違いする、疲れる、持久力に
欠けるなどの領域で活かすようにすることだ。人間以上に仕事ができるAIは、貴重な
戦力となるであろう。
 
2. AIへの希望と不安
 
一方で、AIの進化には不安の声もある。
 
将棋界では、もう人間はソフトに勝てないのではないか、棋士という職業が消滅して
しまうのではないか、という悲観論が台頭している。ほかにも、銀行員の融資査定や、
弁護士の判例調査など、これまで知的業務とされてきた仕事領域でさえ、AIの発達の
影響を受けそうだ。
 
産業革命で登場した機械設備は、多くのブルーカラーの仕事を奪った。今回のAI革命は、
ホワイトカラーの仕事を奪うのではないかと懸念されている。AIが人事評価をする企業
も増えてきており、コンピュータが人間を評価するのか?とか。AIが暴走して、人間を
滅ぼすのではないか?といったSF映画のような心理的不安も大きい。
 
だが、大切なことは「AIと人間の共存」ではなく、「人間社会の発展にどのようにAI
を活用するか」ということである。AIとは道具にすぎないのであり、人間が主体者として
適切に活用すれば、我々はこれまでにない叡智を手にすることが出来るのである。逆に、
我々自身がAIに隷属してしまうようなことがあれば、先に述べた不安は現実のものとなる
可能性が高くなる。
 
3Dプリンターが容易に使える現代社会でも、製造現場における熟練工は貴重な存在である。
機械化=労働者の失業と単純にはつながらないことが、ここからうかがえる。では、ホワイト
カラーがAIに駆逐されないためには、AIを上手に活用するには、どのような仕事の進め方、
あるいは仕事への心構えを持つべきなのだろうか。
 
 3.「仕事ができる」とはどういうことを指すか?
 
そこで、「仕事ができる」ということについて、掘り下げて考えてみたい。
 
私たちは普段、「彼は仕事ができる」「あいつは仕事ができない」という会話をする。では、
この場合の仕事ができるできないは、どういう基準なのだろうか?仕事ができるということは
生産性が高いということである。これまで「日本のホワイトカラーの生産性は低い」という
議論が数多く行われてきたが、その論拠はどこにあるのだろうか。
 
仕事ができる大前提として、職務における知識の質と量が必要になる。仕事がきちんとできるには、
担当業務における基本知識と、その周辺の関連知識を身につけておかなければいけないのは当然
である。次に、知識を実務で発揮できるスキルが求められる。知っているだけでは不十分であり、
知っていることをお金を頂けるレベルで提供できなければならない。そして、問題解決能力がある
ことだ。マニュアル通りの仕事しかできないのでは、仕事ができるとは認めてもらえない。不測の
事態においても、知識を駆使して問題解決できることで、仕事ができると認められる。そして経験
年数の長さは、多くの知識を持ち、事例に接し、問題解決方法を身につけているとみなされる。
 
生産性とは、インプットとアウトプットの関係性(割り算)求めることができる。インプットが
労働時間や賃金総額で、アウトプットが売上や利益であれば、計算は簡単にできる。ところが、
仕事の成果が単純に定義できないことが、議論をややこしくしている。だが、世界に冠たる
「おもてなし」が提供できる日本人が、アウトプットで外国人に劣るということは考えにくい。
労働時間が長く高賃金であっても、それ以上の経営への貢献、つまり高価格高付加価値のサービスを
提供をしている。つまり、現場ホワイトカラーはブルーカラー同様に、いわゆる「生産性」は高いと
考えられる。
 
一方、管理職として仕事ができるできないを論じる場合は、どうだろうか。担当分野における業務
知識やスキルとは別の、マネジメントにおける知識とスキルについて論じられることが多いはずだ。
日本におけるマネジメント知識とスキルの共育は、残念ながら本人任せになっているケースをたくさん
見てきた。たまたまよくできる上司の下で働いて、上司の仕事ぶりを見習ったか、自ら本を読んだり
して学ぶケースがほとんどだ。私は管理職向けに論理的思考の研修を行うことも多いが、本を読んだり
研修に参加したことのある受講者の割合は、官公庁、大企業から中小企業に至るまで10%台前半である。
 
最近は職場の多様性マネジメント対策として初任管理職にコーチングやファシリテーションなどの
研修を受講させるケースも多い。それも一手だが、果たしてコーチングやファシリテーションのスキル
を習得したからといって、それだけで彼のマネジメント能力が向上するのだろうか?管理職としての
生産性は向上するのだろうか?私の体験談をひも解いて、管理職の生産性について考えてみたい。
 
4.私の体験談
 
私はパナソニックで28年間勤務し、経営者の意思決定を補佐する立場で、幹部社員や管理職、社外の
経営者やコンサルタントなど様々な人々と接してきた。同社は実力本位の企業で、学歴に関わらず有能
な人材を登用していることで知られている。
 
私は40歳の時に東大卒MBAホルダーの上司に仕えたが、残念ながら私のワースト3に入る人物だった。
もちろんMBAホルダーで仕事ができる人物もいる。社内や大学時代の友人、コンサルタントに10名
以上の知り合いがいるので、MBAホルダーとはどういう人物なのかということも理解しているつもりだ。
 
一方、中学卒業して製造現場で働き、その後工場長、営業部長、そして子会社社長へと出世した人物を
複数知っている。パナソニックを卒業した今でも、尊敬している人物たちだ。高卒で幹部社員や子会社の
社長、本社の役員になった人物は、枚挙にいとまがないほどの数にのぼる。
 
こうした多くの事例をもとに、私はじっくりと考えた。組織を動かす管理職として「仕事ができる」とは、
どういうことなのか?経営成果をあげた人物には、どんな共通点があるのか?そして、「決断力」という
キーワードに集約できた。仕事ができると感じた管理職は、適宜適切な決断を行っており、仕事ができない
と感じた管理職は、意思決定から逃避していたのである。
 
東大卒MBAの上司は、マネジメント知識は持っていた。でもそれは過去の事例を記憶しているにすぎず、
直面する問題の解決や未来を創造することに役立てることは出来ていなかった。むしろ、評論家的に、
独善的に振舞って周囲のひんしゅくを買ってしまっていた。
彼に相談しても明確な回答が無く、いつまでたっても仕事が前に進まないことで有名だった。見るに見かねて
私が介入し、上手くいった場合は手柄を横取りされ、上手くいかなかった場合は責任を押し付けられた。
「あなた管理職なんでしょう!」という言葉を、何度言おうと思ったか数知れない。
 
一方、中卒の工場長は、経営に関する知識は乏しくても、どうすれば工場が黒字転換できるのかを一生懸命
考えていた。そして出来上がったビジョンに部下の管理職たちが具体策を肉付けし、職場のやる氣を呼び覚ま
して実行していた。自分の部下以外にも、開発や営業にも協力を求め、新製品の量産体制確立のために
技術者を半年間駐在させたり、工場在籍者を営業に同行させて販売拡大に取り組んでいた。これは、通常業務
を超えた決断だった。だからこそ、組織として成果(工場の黒字転換)をあげることができたのだ。
 
決断力とは、単純に肚ぐくりして「エイヤ!」と決めることでは無い。組織のビジョンを描き、メンバーを
巻き込み、勇気づけ、プロセスを明示して目標達成に向けて着実に実行する。「決断して、実行して、ワン
サイクル」なのである。知識が多いから、学歴が高いから、資格があるからといっても、管理職としての
仕事の成果とは関連性は無いことが、パナソニックにおける多数の事例が実証している。
 
5.日本のホワイトカラーの生産性が低い理由
 
日本のホワイトカラーの生産性とは、どのように定義すればよいだろうか。私は、管理職については経営成果を
分子に、管理職報酬を分母にすることが適切だと考える。つまり、管理職が適宜適切な判断・決断を行って
いない場合は、経営成果が少なくなり、生産性も下がるということになる。私の体験談からは、決断力ある
上司が経営成果をあげ、生産性も高いということが導かれたが、では、決断力が乏しい管理職が日本には多いと
感じられるのはなぜだろうか。
 
日本人は意思決定が苦手だと言われる。白黒はっきりさせることを好まないとも言われる。そして組織で同調
行動を取ることを暗黙のうちに要求し合い、自分に犬タイプのように盲従してくる人物を好ましく思う傾向が
強い。これは、職場での人間関係が良好だと判断された人物を管理職へと引き上げる傾向を生む。日本の農耕
文化や高度成長時のビジネスモデル、雇用慣行などの影響も、もちろんあるだろう。
 
ところが、こうした人物が管理職になると、必要な決断を先延ばしにする傾向が強まる。また「情報」を欲し
がるので、必然的に資料の枚数が増える。説明資料が多くなければ不安になり、上司に説明するための手持ち
資料を欲しがる。そして資料作成のための企画部門の人員が増える、労働時間が長くなる、という悪循環に陥る。
これを、資料枚数の多さで測定してみることにする。
 
先日、ある自治体の課長級職員研修を行った際に、「これが人材育成方針です」と送られてきた資料は66
ページもあった。一応しっかりと読んだが、必要なことは要約版のA4用紙2枚に書かれていたことだけだった。
この自治体だけのことかと思ったら、別の自治体でも65ページの資料が届けられてびっくりした。本件は、
要約2ページに詳しい説明は10ページくらいでおさまる分量かと感じた。しかし行政の場合、「誰からも批判
されない」ことが組織の重要な価値観であることが多く、必然的に資料は分厚くなる。いったん始めたことを
やめるにもしがらみが多くて難しいと、複数の受講生から聞いている。
 
私のパナソニックでの経験でも、半導体事業部門は、エアコン事業部門に比較して決算検討会資料で3倍の厚みが
あった。事業規模と複雑さから単純比較はできないにしても、事務所に入ると机の上に置かれた書類の山の高さ、
書棚の広さの違いは歴然としていた。作成した資料が経営者の決断に貢献しないのであれば、労働時間が増え、
残業手当が増え、事務職が増え、生産性が低下する。つまり、決断から逃避しようとする犬タイプ管理職が、
経営成果を少なくし、ホワイトカラーの生産性を低くしている原因なのである。
 
もちろん、日本の経営者にも、果断即決が持ち味の裁判官タイプも存在している。私もそういう事業部門トップの
もとで働いた経験を持つ。ところが、果断なトップは資料枚数が少なくても事業の問題点の本質を素早く見抜く
ことができるのだが、その取り巻きはそうでもないケースが多いのだ。意外にも裁判官タイプのトップは、犬タイプ
を周囲に置きたがる傾向がある。自分の決断を忠実に実行してくれる部隊を好むためだ。そうなると、犬タイプ
管理職が自己保身のために厚めの資料を要求することになる。自己PRのために、組織ごとに方針発表会を開催
して立派な資料の作成を要求する。そして、ホワイトカラーの仕事が増えてゆく・・・という悪循環に陥ってしまう。
 
つまり、生産性が低い管理職には、知識やスキルが不足しているのが問題なのではない。。意思決定や決断が
できないから、経営成果をあげることができず、部下の仕事を増やし、生産性が低いのが問題なのだ。犬タイプの
ように主体性が無ければ、マネジメント知識は決断しない理由づけに使われる。「ここは慎重に判断すべきだ」
「財務分析が必要だ」「フレームワークで考えたのか?」など、部下が一生懸命に作った、出来栄えが素晴らしく
分厚い資料も、活用されることが無い。決断力が不足していると、仕事を前に進めることができない。こうした
管理職にスキル研修を行って知識を詰め込んでも、それは死蔵されるにすぎないのだ。
 
これは、AIがどんなに発達しても、それを活かす人間(管理職)の決断力が組織としての仕事の成果を大きく
左右するということだ。AIが得意なのは、前提条件があり、優先順位が示されたうえで、制約条件がある中で
最適解を導き出すことである。最適解は正解ではない。正解は、前提条件と価値観によって大きく左右される。
前提条件や価値観を明確にすることは、実は決断の大前提である。つまり、犬タイプの管理職はAIに仕事を
奪われるリスクが極めて高いのだ。AIの得意なことと忠実さは、まさに犬タイプ管理職の存在基盤と重なるからだ。
AIを使いこなすには、裁判官タイプの資質=決断力が必要なのだ。
 
管理職のタイプ診断が無料でできるサイトはこちら。
https://www.reservestock.jp/page/fast_answer/3272
犬、天使、キリギリス、アリ、裁判官にタイプ分類。
 
犬タイプの管理職が組織の上層部の大半を占めた場合、組織の活力は低下し、変化対応力を失う。近年の例では、
東芝がまさにその状態に陥っている。様々なステークホルダーの不満を顧みず、ひたすらに上場維持をはかろうと
する姿勢への批判も強いが、犬タイプは自分と自分を引き立ててくれる人物しか眼中に無いので、批判が届かない
のである。
 
6.人間の思考と経営での実践
 
ここで、視点を変えて人間の思考について考えてみたい。
 
人間の思考には大きく分けて3つある。ひとつは「推論」で、与えられた情報から新たな情報を生み出すことである。
これは問題を解くための思考活動である。二つ目は「問題解決」で、ある目標を達成するための思考活動である。
問題とは、ありたい姿と現実とのギャップであり、このギャップをいかに埋めるか?の手段を考え、目標を分析する
、という思考を行う。三つ目は「意思決定」で、問題解決のために複数の選択肢から選ぶという思考活動である。
 
 
これまで日本の学校教育では、正解あるいは最適解をいかに早く求めるか、を教えてきた。これは「推論」にあたる。
そのために、知識を詰め込み、正解の数が多いことをもって「優秀な人物」としてきた。実は、コンピュータが
もっとも得意としていることが「推論」なのである。つまり、コンピュータと同じ土俵で人間を競わせているのだ。
いや、コンピュータが発達していなかったからこそ、人間がこうした知的単純作業に従事せざるを得なかったとも
言えるだろう。
 
一方で、経営の現場で求められるのは「問題解決」である。問題解決の中身は二つに分かれる。「問題発見」と
「狭義の問題解決」である。日本式教育では、「狭義の問題解決」のために必要な知識と手段については教えてくれる
が、「問題発見」はまったく教えられない。むしろ、自分で問題を発見するなどということは、教師に対する挑戦と
受け取られることすらあった。
 
思考のもとになるのが知識であることは、私も同意する。コンピュータの記憶容量と演算速度が低かった時代には、
人間の記憶力しか、知識を蓄える受け皿がなかった。本や書類も記憶媒体としては大切だが、使いこなすためには
どこに何があるのかを記憶しておかなければならない。したがって、知識量が多い人物が優秀だとみなされ、記憶
することに教育の重点が置かれてきたのだ。そして、与えられた問題をいかに解決するか、を一生懸命学校で教え、
学んできた。
 
ところが、経営とはお客様や社会のお困りごとを発見して、解決策を上手に提示できた企業が成功するものである。
お困りごとを解決するために、過去の事例や法令などを参照して最適解を出すことは、人間よりもAIが優れている。
記憶できる事例の多さ、答えを出すスピード、疲れを知らずに働ける分野では、人間ではなくAIを活用すべきだろう。
銀行の融資担当者の仕事、弁護士の判例検索の仕事などは、まさにこの分野の仕事である。前例や規定にのっとって
判断をする場合の管理職の仕事も、ここに含まれる。
 
お困りごとは、定型化されていないことも多い。社会やお客様自身がまだ気づいていない場合もある、こうしたときに
必要なのは「広義の問題解決能力」「問題設定能力」、そして「意思決定」である。日本式教育のエリートやMBAの
ように「狭義の問題解決」能力がいかに高くても、設定した問題そのものが的外れだった場合には成果が挙がらない。
むしろ、お客様や社会が抱える問題を広い視点から見つめなおし、困難な状況下でもその解決に向けて情熱を傾ける
仕事に取組み、「意思決定」の困難さから逃げないことが、これからの時代の人間の仕事として求められると考える。
エジソンやアインシュタインなど、今日の私たちが天才と称賛する科学者の多くは、学生時代は落第生だったという
事例も多い。彼らが得意としたのは「問題発見」であり、その解決への努力のすさまじさが、私たちの共感を集めている。
さらに、カナダのマギル大学経営大学院教授のヘンリー・ミンツバーグは、著書『MBAが会社を滅ぼす 』の中で、
過去の知識と財務分析に偏りがちなMBA教育の手法は、「狭義の問題解決」には有効であっても、企業家精神を呼び
覚ますには不適切だと述べている。
 
その最たる例が、松下幸之助である。家庭の事情で10歳で奉公に出た幸之助は、「これからの時代は電気で世の中を
便利にすることが自分の使命だ」と悟った。そして電器製品を庶民でも手に届く価格で提供し、全国津々浦々に販売網
を構築し、従業員の忠誠心を獲得することで大成功をおさめた。幸之助が優れていたのは、まさに問題設定能力であり、
「意思決定」であり、人々のネットワークを構築する能力であった。これはAIではできない仕事であり、逆に幸之助が
AIを使うことができていたなら、どんな風に使い、どんな成功をおさめたかと考えると、興味は尽きない。ほかにも、
企業の創業者や中興の祖とされる人物も、これまでの延長線上で考えない「問題設定能力」が優れていたとこをうかがわ
せるエピソードは多い。
 
 私は「判断」と「決断」を明確に分けている。「判断」とは、規定や前例にのっとって仕事を進める分野であり、
「狭義の問題解決」で主に活用される。「決断」とは、規定や前例がないことに対して、一定の答えを出すことである。
「広義の問題解決」を行う場合には決断が必要であり、その前段階として「問題発見」が行われていると考える。企業の
創業者、偉大な科学者は、まさに「決断」を行ってきたのであり、生産性の高い管理職は、日々の業務の中で決断の
ウエイトが高い。逆に、生産性が低い管理職は決断を避け、判断業務に逃げ込んでいる。たとえば、部下が持ってきた
経費精算伝票にハンコを押す、会議に出席しても沈黙を守るなどの行動が多くなっている。
 
「狭義の問題解決」については、将棋ソフトのように、制約条件下でいかに最適のプロセスをたどるかが大きなカギを握る
。こうした分野では人間よりもAI方が優れているので、AIを積極的に導入することで、より大きな成果を獲得する
ことが期待される。
したがって、人間は「問題発見」「広義の問題解決」に注力すること、そして「意思決定」においてAIを使いこなす
ことが、これからの時代に求められる働き方となる。
 
7.ナポレオン流「決断力の高め方」
 
 では、「問題発見」「広義の問題解決」能力は、どのようにすれば習得できるのか。グローバル人材の要件としても
大切なのか、について考えてみたい。
 
経営活動のグローバル化に伴い、「グローバル人材」の育成についての議論も数多くなされている。ところがその定義とは
誠に曖昧で、論者によって様々だと感じている。
 
よく語学力が大切だと言われるが、AIが進化すれば基本的なビジネス会話はAIに任せる方が有効になると、私は考える。
本当に大切な語学力とは、環境の整ったオフィスで行う英会話ではなく、現地の居酒屋で交わす現地語コミュニケーション
の方である。これは、パナソニックにおける多くの海外出向者の成功例から導き出したものである。彼らは英語が流ちょう
にしゃべることができなくても、経営への想い、達成したい目標、その情熱を全身全霊をもってローカル社員にぶつけていた。
そして必要な協力を引き出し、目標を達成した。自分の意思を、現地の言葉で現場社員に伝えることができるのが、真の
グローバルコミュニケーションなのだ。
 
異文化体験、子会社体験が大切だと言われるが、ここはもう少し掘り下げて考えてみるべきだ。なぜ、異文化や子会社での
体験が経営人財育成にとって有益なのか?それは「どうすればできるか?」という思考のトレーニングを繰り返す頻度が多く
なることで、経営者としての決断力を高めることにつながるからである。日本ではより上位の役職者が決断すべきことでも、
自分が交渉の前面に出て、問題解決にあたった経験が、一皮むけた人物へと成長させるのだ。
 
単に海外出向して幹部職を務めたというだけでは、ビジネスに必要な決断力は高まらない。私の元上司も、シンガポールの
子会社で常務を務めた。英語もできる。でも、ローカル人財が嫌気がさして退職するケースが相次いだ。自分で物事を決める
ことが出来ず、何でも日本の親元の指示を仰ぐか、現地スタッフに丸投げしていたからだ。履歴書は「どこ」で仕事をしたかを
伝えるが、「何を」「どのように」決断したのかは伝えてくれない。
 
つまり、体験や経験は、本人に主体性が無ければ、ただ時間が過ぎただけになってしまう。「賢者は歴史に学び、愚者は
経験に学ぶ」というが、賢者の代表としてナポレオンにご登場願おう。
 
ナポレオンは、一士官から大統領に上り詰めた一代の英雄として知られている。彼はフランス革命後の混乱する社会を
見事にまとめ上げ、多くの外征を行った。数十万にも上る軍勢を統率してゆくことは並大抵ではない苦労と忙しさがあるのだが、
彼は軍旅中でも1冊の本を手離さなかった。それは、ギリシャ・ローマ時代の政治家や軍人の伝記である。誕生から青年期、
社会に出て経験を積み。そして主人公は大きな決断を迫られる。ここでナポレオンはハタと本を閉じ、自問自答する。
「自分だったら、どうするだろうか?」と。この問いに答えを出した後、再び読み進めた。これを繰り返すことで、歴史上の
人物の思考と行動をわがものにすることに成功したナポレオンは、偉大な業績を残すことができたのである。
 
つまり、決断力に不可欠な要素は、「主体性」「深める思考」「実行力」の3つが必要となるのである。
置かれている状況を我がことと考え、どうすれば最善の姿になるのかを深く考え、決断したことを人を動かして実行する。
そのためにAIの支援をどのように活用するかを考えることが、本質的な問題解決につながる思考方法なのである。
 
8.思考力、決断力の効果的なトレーニング方法
 
では、思考力や決断力はどのようにすれば効果的にトレーニングできるのか?私が企業研修や講演で行い、多くの受講者から
成果報告を受けている方法をご紹介する。
 
それは、普段当たり前だと感じていることを、今一段掘り下げて考える問いを発することである。
例えば、管理職研修では冒頭に「管理職はなぜ必要か?」と考えてもらうことにしている。組織の中にいると、係長がいて、
課長がいて、部長がいることに何の疑問も持っていない人が多い。でも、ピラミッド型組織だけが組織では無いし、フラットな
組織やアメーバ型で専門家がコラボレーションするような仕事の進め方も存在するのだ。では、管理職が存在することの
メリットは何か?存在しないとどんなデメリットが存在するのか?この問いを考えることで、管理職としての仕事の目的、
存在意義について再認識できる。そして、自分に期待される仕事と役割をしっかり持つことで、仕事や部下に対して真摯に
向き合うことが出来るようになるのだ。
 
二つ目の方法として、自分だったらどうするか?その理由は?と考える問いを発することだ。
結果を知っていることでも、その過程を掘り下げて考えることで、自分の仕事に活かせることを見出すのだ。
たとえば、桶狭間の戦いを例に、戦いの経過を簡単に伝える。結果についてはみんな知っている。そこで、「織田方の武将で
5人の手柄を立てた武将がいる。誰に一番手柄を与えるか?その理由は何か?」と問うのである。織田信長はこうした、と
最後に伝えるが、信長のやったことを知っていることが大切なのではない。成果主義、結果主義、プロセス主義なんでもいいの
だが、置かれた状況においてベストの問題解決方法を考え、評価軸を事前に明示し、評価軸に沿った基準で仕事を評価する
ことが大切だと、お伝えしている。
そうしなければ、「オレの手柄の方が大きい!」と内輪もめを始め、組織が崩壊することにもつながりかねないからである。
 
 「自分だったらどうするか?」といきなり考えるのでは、正解を求める思考に慣れた人々にはハードルが高い。そこで、
三つ目の方法として、まず「どのようなことを決断したのか」と、事実をきちんと確認してもらうことにしている。これは、
エピソードを読めば具体的に書いてある。次に、「どのような価値観を持っていたのか」と、具体的行動の背景を考えてもらう。
 
 
 よく使うエピソードに、「ソニーの伝説の営業マン」がある。ヨーロッパでトランジスタラジオの市場開拓に乗り出した
小松氏は、1年たっても1台のラジオも売ることができなかった。部下の一人が過労で帰国する事態にまでなった。そこで、
若きドイツ人貿易商が言葉をかけてきた。「ドイツ人は、日本製品を相変わらず粗悪品だと思い込んでいます。ここは、
高級店に絞って売り込むべきです」と。小松氏は、ペコペコ頭を下げるだけの営業が嫌いだという。プライドをかなぐり捨てる
営業姿勢では、長続きしないともいう。メイドインジャパンの商品は、ドイツでも必ず売れる!こうした価値観を持っていたから
こそ、「高級店に絞る」というアドバイスを素直に受け入れることができたのだった。そして、大成功をおさめた。仮に、
小松氏が「なんでもかんでも売れればいい」という価値観を持っていたら、アドバイスを受け入れること無く、失敗していた
ことだろう。
 
 AIは、前提条件と価値観を入れることで、最適解を短時間で導き出してくれる。でも、「なんでもかんでも売れればいい」と、
「しっかりした商品を提供する」という価値観の違いは、AIが出す最適解も全く違うものになる。売上とは個別商品の販売数と
販売単価の合計で計算されるが、その導き出し方には人間の価値観の数だけ違いがあることを、今一度認識しておきたいものだ。
 
9.ゆるぎない「決断の軸」を持つ
 
 これまで、管理職の生産性を左右するのは、決断力であることを述べてきた。知識の量やスキルだけでは組織を動かして成果を
あげることができず、管理職は犬タイプから、決断力がある裁判官タイプへと変身することが大切であるとも述べた。決断力の
大前提には「主体性」がある。現実の問題解決や未来を創造するのは自分自身だ!という強い想いが無ければ、知識やスキル、
そしてAIは活用できない。
 
 決断力の基盤には、「深める思考」がある、これはAIの得意分野であり、自らの主体性の許で活用することが望ましい。
AIは、最適解を導き出してくれるが、答えを出したプロセスを説明してはくれない。聞いたところで人間に理解できるわけは
無いのだが、人の心理として聞いてみたいと思うのは仕方がないと思う。大切なことは答えを出したプロセスを知ることでは無いのだ。
 
それは、決断力の3つ目のキーワード「実行力」と深くかかわってくる。AIが出した答えを実行するのかやめるのかの決断を、
人間がおこなうことにある。これら3要素の磨き方については、前章で述べたとおりである。
 
管理職が現場で是々非々の決断を行うには、ゆるぎない「決断の軸」を持つことが決定的に重要になる。行き当たりばったりや、
ふらふらとブレるようなことがあっては、コンピュータに使われている人だという批判を免れることはできない。「自分は
こういう決断の軸(信念、方針など)を持っている!だから(AIが出した最適解を)こう活用すべきだ!」と言い切ることが
出来る人こそ、AIを使いこなすことができるのではなかろうか。そして、AIが出した答えを活かしきることができるのだ。
 
「決断の軸」とは、その人の信念や方針である。これらの土台には、価値観がある。価値観とは、何を好ましいと思い、何を
好ましくないと思うのかということの総体であり、それぞれに優先順位付けが行われた体系となっている。
 
価値観の土台には、倫理観がある。現代社会では法令で人々の行動を律することになっているが、法令で禁止されていないことでも、
人としてやってはいけないことというのがある。AIが出した最適解には、価値観は優先順位付けとして織り込むことができても、
倫理だけは教えることができない。
 
人間が人間らしくあるために、ホワイトカラーの生産性を高めるために、AIを経営の意思決定に活用するために。決断力の3要素で
ある「主体性」「深める思考」「実行力」を磨くとともに、決断力の基盤となる「価値観」と「倫理観」について普段から深く考えて
おくことが、これからの社会をより素晴らしいものにするうえで大切になってくるのである。
 
裁判官タイプの経営者や管理職は、決断力は優れていても、ややもすると他人にも厳しく当たってしまうことが多い。これが社員や
部下のメンタルダウンの要因ともなっている。いわゆるブラック企業とは、裁判官が5で、天使が0~1の経営者である。倫理観と
いう観点からは、私は天使タイプの要素も増やすようにと指導している。厳しくても思いやりがあれば、社員や部下はついてくるのだ。
決断力が優れていて、なおかつ人への思いやりや社会全体への気配りを行える人財を育てること。AIを使いこなすためにも、
日本社会の健全な発展のためにも、私も微力をささげてゆきたい。
 
 
2017/07/23

AI(人工知能)と人間の決断力

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